「探偵に頼めば、普通の人ではできない方法で何でも調べられるのでは」と考える方もいます。しかし、探偵業の届出は、住居への立入り、盗聴、他人のアカウントへの無断ログインなどを認める特別な許可ではありません。探偵は、依頼目的と調査方法の両方について法令を守り、調査対象者の生活の平穏や権利利益にも配慮して業務を行う必要があります。この記事では、探偵へ依頼できる調査と依頼できない調査の境界、契約前に確認したい書面、ストーカー目的など不適切な依頼が拒否される理由を、探偵兼行政書士の立場から整理します。
探偵だから違法な方法で調べられるわけではない
結論からいうと、探偵にだけ認められた「特別な捜査権限」はありません。警視庁も、探偵業の届出をしたからといって、他の法令で禁止・制限されている行為ができるようになるものではないと案内しています。
探偵業法上の「探偵業務」は、依頼を受け、特定人の所在や行動に関する情報を集めるため、聞込み、尾行、張込みなどの実地調査を行い、その結果を依頼者へ報告する業務です。だからといって、調査のためなら何をしてもよいわけではありません。
例えば、調査対象者を確認する目的であっても、他人の住居や敷地へ無断で立ち入る行為は許されません。また、電話の盗聴や、他人のスマートフォン・メール・SNS・クラウドへ無断でアクセスする行為も、探偵業務だから適法になるものではありません。
| 依頼内容・方法 | 考え方 |
|---|---|
| 公開情報や適法な実地調査から所在・行動を確認する | 依頼目的と方法が適法であれば、探偵業務として検討される範囲です。 |
| 尾行・張込み・聞込み | 探偵業務の代表的な方法ですが、場所や態様によっては権利侵害や他法令違反になり得るため、無制限ではありません。 |
| 他人の敷地や住居へ無断で入る | 探偵であっても認められる特別な権限はありません。 |
| 他人の端末・アカウントへ無断ログインする | 依頼者が希望しても、適法な調査方法として扱えるものではありません。 |
| 盗聴・盗撮など違法な手段で情報を得る | 調査目的が正当でも、手段が違法なら許されません。 |
「何を調べたいか」だけでなく、「どのような方法で調べるのか」まで確認することが重要です。契約前に調査方法の説明を求め、曖昧なまま進めないようにしましょう。
依頼の目的が違法なら、調査方法が普通でも受けられない
探偵業では、調査方法だけでなく依頼目的も重要です。たとえ表面的には一般的な所在調査や行動調査であっても、その結果を犯罪、違法な差別、嫌がらせ、ストーカーなどに利用する目的であれば、受任できません。
この確認は単なる形式ではありません。警察庁の解釈運用基準では、「違法な行為」は刑事上か民事上かを問わず、違法と評価される行為全般を指すとされています。したがって、「暴力を振るうつもりはない」「住所を知りたいだけ」と説明しても、実際の目的や経緯から違法・不当な利用が疑われる場合には、探偵側が詳しい事情を確認することがあります。
受けられない可能性が高い依頼の例
次のような依頼は、内容や目的によって受任できない、または追加確認が必要になる代表例です。
- 別れた交際相手の居場所を突き止め、直接会いに行くための所在調査
- 拒絶されている相手の勤務先や通学先、行動時間を知るための調査
- 報復、嫌がらせ、脅迫、押しかけ等に利用する目的の調査
- 人種、国籍、出身、宗教その他を理由とする違法な差別につながる調査
- 第三者の個人情報を不正に取得すること自体を目的とする依頼
一方で、同じ「住所を知りたい」という相談でも、貸した金銭の返還請求、裁判手続、適法な通知の送付、家族の安否確認など、目的によって検討すべき法的・実務的な手段は変わります。依頼目的を隠さず、何のために必要なのかを最初に伝えることが大切です。
途中で違法な利用目的が分かった場合も調査は続けられない
契約時には問題がないように見えても、その後のやり取りで依頼者の目的が変わったり、違法な利用を考えていることが判明したりすることがあります。その場合、探偵は「もう契約したから」という理由でそのまま調査を続けることはできません。
警察庁の解釈運用基準では、違法な利用を確定的に認識した場合だけでなく、その可能性を認識しながら「そのように使われても構わない」と容認する場合も問題になるとされています。依頼者から見れば「事情を聞かれすぎる」と感じることがあるかもしれませんが、適正な調査のためには目的確認が必要です。
ストーカー目的の情報提供は特に厳しく確認される
2026年3月10日から施行された改正ストーカー規制法では、ストーカー行為等のおそれがある者への情報提供を防ぐための仕組みが強化されています。警察庁は探偵業者に対し、依頼者の言動からストーカー行為等のおそれが疑われる場合は警察へ相談するよう周知しています。
ストーカー規制法では、ある者がストーカー行為等をするおそれがあると知りながら、その者に対し、相手方の氏名、住所その他ストーカー行為等に必要となる一定の情報を提供することが禁止されています。さらに、改正により、警察が一定の場合に情報提供をしないよう求める通知等を行う仕組みが設けられました。
そのため、「元交際相手の住所だけ知りたい」「会って話をしたいだけ」といった相談でも、別れた経緯、現在の関係、相手から接触を拒まれていないか、警告や禁止命令等の事情がないかなどを確認することがあります。依頼者が正当だと考えている目的でも、対象者の安全を害するおそれがある場合には、調査を受けられないことがあります。
適法な目的でも「必ず調べられる」とは限らない
依頼目的が正当であっても、希望する情報が必ず判明するわけではありません。探偵は、戸籍、住民票、口座残高、通信履歴、犯罪歴などを、探偵であるという理由だけで自由に取得できる立場ではありません。公的記録にはそれぞれ請求要件があり、民間の情報にも取得・利用に関する法的な制限があります。
また、対象者の行動状況、手がかりの量、経過年数、調査可能な地域、依頼者が持っている情報などによって、現実に採れる方法は変わります。「合法な目的だから必ず分かる」「費用を払えば必ず特定できる」といった結果保証はできません。
調査が難しい場合は、目的そのものに立ち返ることも大切です。例えば、相手の住所を知ることが最終目的ではなく「通知を届けたい」「裁判手続を進めたい」「安否を確認したい」という目的であれば、別の公的手続や専門家への相談が適する場合があります。探偵への依頼は、目的を達成するための手段の一つとして考えると整理しやすくなります。
契約前に確認したいのは「届出」だけではない
探偵へ依頼するときは、公安委員会への届出があるかだけで判断するのではなく、契約内容の説明が具体的か、調査方法や費用の範囲が明確かを確認しましょう。届出は探偵業を営むための制度ですが、届出をしていること自体が個々の調査内容の適法性や調査結果を保証するものではありません。
契約前書面で見るポイント
契約前には、少なくとも次の点を確認しておくと、後から「想定していた調査と違った」というトラブルを減らしやすくなります。
- どの情報を、どのような方法で調べる予定なのか
- 調査地域、期間、時間帯、調査体制はどう考えているか
- 他の探偵業者へ委託する可能性があるか
- 報告書、写真、動画など、どの形で結果が報告されるか
- 追加調査が必要になった場合、誰がどの時点で判断するか
- 料金の総額、追加料金、実費、成功報酬等の条件はどうなっているか
- 契約の解除や、取得資料の取扱い・処分はどうなるか
警察庁の解釈運用基準では、金額が調査結果や過程によって変動し得る契約の場合、最大限の総額や算出の基礎となる料金設定等を詳しく明らかにする必要があるとされています。「成功報酬だから最終的な金額は分からない」だけで済ませず、何にいくらかかり得るのかを確認しましょう。
ウェブサイト上の標識も確認材料になる
2024年4月1日の制度改正により、従来の「探偵業届出証明書」は廃止され、探偵業者は、開始の届出をしたことを示す標識を営業所の見やすい場所と一定のウェブサイトに掲示する仕組みとなっています。奈良県警察も、現在の探偵業手続として標識の様式を案内しています。
ただし、標識があることは「行政への届出がされている」という確認材料の一つです。実際に依頼する際には、目的確認をきちんと行うか、契約書面を交付するか、調査方法を説明するかも合わせて見てください。
自分で調べる場合も「探偵に頼まなければ自由」ではない
探偵へ依頼しなければ何をしてもよいわけではありません。自分で相手を追跡したり、端末を確認したりする行為でも、方法によっては住居侵入、不正アクセス、プライバシー侵害、ストーカー規制法上の問題などにつながる可能性があります。
特に、感情的になっているときは「証拠を取るため」「直接確認するため」と行動を広げやすくなります。まずは、自分が適法に保有している情報を整理し、日時、場所、連絡履歴、相手との関係、調査が必要な理由を記録するところから始めるのが安全です。
相談前に整理しておく情報
探偵へ相談する際は、次のような情報があると、受任の可否や調査方法を検討しやすくなります。
- 誰について調べたいのか。氏名、写真、過去の住所、勤務先等、分かっている情報を整理する。
- 何を知りたいのか。現在の住所、勤務先、行動状況など、目的を一つずつ分ける。
- なぜ必要なのか。裁判、金銭請求、家族の安否確認、不貞の事実確認など、利用目的を具体的にする。
- 対象者との現在の関係を整理する。接触拒否、警察への相談歴、保護命令等の事情があれば必ず伝える。
- 希望する調査期限や予算があれば、契約前に伝える。
受任可能かどうかは、依頼者と対象者の関係、調査目的、希望する情報、必要な調査方法などを総合して判断されます。同じ「人探し」や「住所調査」でも、事情によって対応は異なります。
探偵・行政書士・弁護士・警察の役割を分けて考える
調査で事実を確認した後に何をしたいのかによって、相談先も変わります。探偵は適法な範囲で事実確認や所在・行動の調査を行う立場です。行政書士は、依頼者の意思に基づき、内容証明、通知書、契約書、合意書等の文書作成を支援することがあります。
一方、相手方との慰謝料交渉、示談交渉、紛争性のある代理、訴訟代理、具体的な法的判断が必要な場合は弁護士の領域です。また、暴力、脅迫、ストーカー、行方不明、生命・身体への危険など緊急性がある場合は、探偵への相談よりも先に警察への相談や110番通報を優先すべき場面があります。
| 相談したい内容 | 主な相談先の考え方 |
|---|---|
| 所在や行動など事実関係を適法に確認したい | 探偵への相談を検討します。 |
| 通知書・内容証明・合意書等を作成したい | 内容に応じて行政書士等への相談を検討します。 |
| 相手との交渉、慰謝料請求、訴訟対応が必要 | 弁護士への相談が適しています。 |
| 身の危険、暴力、脅迫、ストーカー被害がある | 警察への相談を優先し、緊急時は110番を利用します。 |
生駒法務探偵事務所では、探偵兼行政書士という立場から、調査が必要な部分と、文書作成で対応できる部分を分けて考えます。ただし、行政書士が相手方との紛争交渉や訴訟代理を行うことはできません。必要に応じて、弁護士や警察等への相談を検討することが重要です。
「違法な調査をしてくれる探偵」を探さないことが大切
依頼者にとっては、「どうしても知りたい」「早く確認したい」という事情があるかもしれません。しかし、違法な手段で得た情報は、対象者との新たなトラブルを生み、依頼者自身が法的責任を問われるきっかけになる可能性もあります。
また、適正な探偵業者であれば、依頼目的を確認し、希望どおりの調査ができない場合にはその理由を説明します。「他社が断った方法でも必ずできる」「どんな情報でも取れる」など、調査権限が無制限であるかのような説明には注意が必要です。
生駒市、奈良市、大和郡山市など奈良県内で探偵への依頼を検討する場合も、地域だけでなく、調査目的、調査方法、契約書面、料金の説明、調査後の情報管理まで含めて確認しましょう。
まとめ
探偵業の届出は、違法な方法で調査する権限を与える制度ではありません。探偵は、他の法令を守り、対象者の生活の平穏や権利利益を侵害しないように調査する必要があります。また、調査結果が犯罪、違法な差別、ストーカー、嫌がらせ等に使われると分かった場合は、調査を続けることができません。
依頼前には、調査目的を正直に伝え、方法、期間、報告方法、料金、追加費用、契約解除、取得資料の扱いまで書面で確認してください。身の危険や犯罪被害がある場合は警察、交渉や訴訟が必要な場合は弁護士への相談も選択肢です。生駒法務探偵事務所では、適法な調査が可能な内容かを確認したうえで、探偵調査と行政書士としての文書作成をそれぞれの範囲でご案内します。

